大判例

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福岡高等裁判所 昭和31年(う)152号・昭31年(う)153号 判決

なお職権を以て調査するに、被告人辻昇は被告人伊豆善郎と共に本件私文書偽造、同行使、詐欺の共同正犯として同時に起訴せられ昭和二九年九月九日の原審第二回公判期日において共同審理を受け、検察官より被告人辻昇の原判決証拠欄摘示の各証人の取り調べを請求し、原審においてこれを採用して次回以降の各公判期日に取り調べる旨の決定をしたところ、被告人辻昇が同年一一月二日の第三回公判期日に病気のため出頭しなかつたので、原審は同被告人の審理を分離し被告人伊豆善郎関係につき公判を開いて前回採用した証人の一部を取り調べ、次いで同被告人のための同月四日の第五回公判期日、同年一二月二日の第六回公判期日において残余の各証人を取り調べたものであるのに拘らず、昭和三〇年九月八日の被告人辻昇の第一九回公判期日においてさきに被告人伊豆善郎の第三回、第五回、第六回公判期日で取り調べた前記各証人の供述調書を、検察官及び被告人又は弁護人の同意を得ることなく職権を以て取り調べた上これを被告人辻昇の原判示事実認定の証拠に供していることが明らかである。けれども、右各証人の取り調べ決定は被告人両名共同審理の公判期日においてなされたものではあるが、その取り調べは被告人辻昇を分離除外した被告人伊豆善郎の公判期日においてなされたものであつて、被告人辻昇の公判準備又は公判期日において取り調べたものとは謂われないから、その証人調書は検察官及び被告人又は弁護人の同意がない限り同被告人関係においては直ちに証拠能力を生ずるに由なく、たかだか裁判官の面前調書として刑事訴訟法第三二一条第一項第一号の適用あるに過ぎないものであるのにその要件も具備しないこと論をまたない。証拠能力なきものは職権によつても証拠にとりえない。従つて被告人辻昇の原判決は証拠能力のない原審公判調書中の供述記載を証拠に供した違法あるものと謂わねばならない。けれども、右違法な証拠を除いても爾余の証拠を以て原判示事実を優に認め得るから、該違法は未だ以て原判決破棄の理由とはなし難い。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

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